トノの砂金

ある採集家の思考 2015.9〜2017.4 2018.4〜2018.7 2019.1~

段差ではなく椀

<トノの秘伝シリーズ②>

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砂金は段差にたまる、と入門書には書いてある。確かに、段差にあることは多い。しかし砂金が全く溜まらない段差もあり、必ずしも段差=砂金たまりではない。平面で見たときに流れの方向に対して横か縦か斜めかであるとか、断面で見たときにヒビの向きが上向きか下向きかであるとかよりも、自然選鉱が行われる椀がけ状態が形成されているかどうかがポイントである。

椀がけとは、金山衆が砕いた山金の選別に使っていた、お椀の上から金を含む礫水が注がれあふれ、金だけが残るあの仕組みである。平面的にも断面的にも撹拌状態が続き、重力に逆らう上方向のみにオーバーフローすることにより、比重の重いものだけを残す。パンニングも原理は同様であり、比重選鉱は全て上方向から不要なものを捨てる。

「椀」は立体状態を示すが、「段」や「ヒビ」は断面形状を示す言葉であり、その断面が連続する長さを規定していない。断面だけを見れば撹拌は起こるが、上から溢れている構造になっているかどうかは平面を見てみなければ分からない。横に流れず上からのみあふれている状態が理想であり、川では常に3Dで自然選鉱が起こる椀を探す必要がある。

岩盤だけで椀が形成されていることもあるが、岩盤のヒビに石が挟まることで椀が形成されることも多い。自分が一か所で15gを採取したポイントもガッチリ玉石が嵌まることで完全な椀が形成されていた。将来追加採取できるよう椀を構成するガッチリ玉石を残したのだが、翌週には人に外され、まぼろしのスゴ椀となった。

椀がけで重要なポイントは、椀形状と流入ベクトル、選鉱物のサイズである。自然の川も同様で、椀形状の形成と流入の入射角がポイントとなる。椀に正しく入らない限り、選鉱にもならない。ここまで記してみたが、やはり言葉では限界があるので図示してみる。川では3Dで考えることが大事であるが、図示では平面図や断面図といった2Dにしなければ伝えることは難しい。寄せ場のノウハウが伝承されない理由はこのあたりにある。